住居と仕事場の距離感
2020年で創業15年目を迎えた大元工務店は、これまでに70棟以上の住宅を手がけてきました。最近は暮らし方が多様になり、家で仕事をする人が増えています。当社でも、美容室やカフェ、エステサロンなどを併設した店舗併用住宅をつくっていますが、実は私の自宅も事務所併用住宅です。
当社の事務所は、築32年のコンクリートブロック住宅の1階にあります。起業した当時、私は自宅の一角を事務所にしていて、生活空間がそのまま仕事場という環境でした。仕事の時間と家族との生活の境目は緩やかで、幼い子どもを抱きかかえての仕事にも良さはあったのですが、今暮らしているこの建物を購入してリノベーションするにあたり、「職」と「住」の空間のあり方を変えてみました。事務所と住居の玄関は別々に設け、屋内ではつながらないよう空間を完全に分けたんです。
そうなると事務所と住居を行き来するのに、必ず一度外へ出ることになります。たったそれだけですが、頭の中を切り替える良いスイッチになりました。仕事と家庭での気持ちにメリハリがついて、こういう空間の距離感が今の自分には合っているんだな、と実感しています。
これまでに手がけてきた店舗併用住宅は、ご家族によって職種もご年齢も、敷地条件もライフスタイルもさまざまです。そこで大切なのは「ご家族にとって最適な仕事場と住居の距離感を見いだすこと」だと私は考えています。ですから職住一体のお住まいのプランニングでは、お店と住居はどのくらいの位置関係だと暮らしやすいか、仕事と家庭の気持ちの切り替えをどの程度重視するかなどをご家族とじっくりお話しして、いい塩梅な距離感を一緒に見つけながらご提案をしています。
住宅×エステサロン
Mさんは家の新築を機に、自宅でエステサロンをオープンしました。1対1での接客ということもあり玄関は1ヵ所で、中に入るとお店と住居に分かれます。「エステなので、お客さんが非日常空間でリラックスしやすいことが大切」。そう考えた大元社長は、Mさん宅のプライベートゾーンを通らないで済むよう、玄関に入ってすぐ脇にエステサロンを配置。窓に沿って土間が続く設計で、土足でそのまま室内に入れます。お客さんも使用するトイレは玄関近くに。ここにもプライバシーへの配慮があります。
住まいとして暮らしを楽しむ工夫も忘れません。Mさんご夫妻が特に大事にしたのがバルコニー。近くに公園が広がる立地を生かし、その眺望を楽しみながら過ごせるよう広めに設計し、手すりの高さにもこだわりました。BBQをするなどして家時間も楽しんでいます。
住宅×美容室
美容師であるEさんは、子育てと家事、仕事を両立できるようにと美容室を兼ねた店舗併用住宅を計画しました。住居と美容室は玄関を別々に設けましたが、当時はお子さんが幼かったこともあり、LDKを店舗の隣に配置。仕事の合間を縫いながらの家事・育児がしやすい間取りを選びました。美容室が塗り壁にライトな色の木を合わせたナチュラルな空間の一方で、住居はダークな色の木やシックなトーンのレンガ壁などを用いて落ち着いた雰囲気に。内装仕上げの違いが、「職」と「住」の切り替えスイッチになっています。
「ちょうど良い距離感」は変わるもので、お子さんが成長してお店がLDKと少し離れていても大丈夫になったEさんは「大元さんに提案された2階リビングもアリだったな」と思うこともあるそうですが、「わが家が一番いい」という想いは今も同じ。愛着を増した住まいで、豊かな家時間を過ごしています。
1人の時間を楽しむ書斎
今回の新型コロナウイルスの影響でテレワークが増え、自宅でのオフィス代わりになる書斎やワークスペースに注目されている方も多いと思います。当社でも書斎をつくるケースは多いですね。ご希望があればもちろんのこと、「別になくても…」とおっしゃられた場合でも、ご主人の雰囲気や趣味などから小さな書斎をご提案することもあります。
細長い空間にカウンターと棚を造りつけたり、シューズクロークの奥に1.5帖ほどのコーナーを設けたりと、スペースをなんとか捻出してつくった小さな書斎は、「趣味に没頭できる」「1人の時間を楽しめる」とご主人たちのお気に入りの場所になっているようです。コンパクトさがかえって隠れ家的で、子どもの頃に遊んだ秘密基地のようなワクワク感があるのかもしませんね(笑)。オープンなワークスペースも良いですが、コンパクトでもこもれるこういう場所があると、テレワークの際も使い勝手が良さそうです。